Technology

技術のポイント

技術の概要

基本技術の一例。これらを組み合わせることでたとえば車載レーダから放射される電場分布の可視化が可能となる。

岐阜大学久武研究室で開発された、光技術、高周波技術、計測技術、プローブ技術、アンテナ技術などの基礎技術を組み合わせることで、さまざまなニーズに応える計測システムが実現されます。

たとえば左図(1)に示すミリ波・テラヘルツ波を低周波に周波数変換する光技術は、電気光学結晶(左図(1)の青い部分)が置かれた場所における、電磁波の振幅と位相の情報を光ファイバで遠隔に送信するものです。光領域にミリ波・テラヘルツ波の情報を転写することで、低ロスな光ファイバを情報信号の伝送媒体として利用可能となります。光ファイバは、周囲温度や屈曲によって大きな影響をうけますが、計測結果はそのような外乱の影響をほとんど受けないところにも隠された技術があります。

その場の電界を低擾乱にセンシングするプローブ。

光ファイバ(黒い部分)の先端に装荷された電気光学結晶(0.2〜1 mm角)により、被測定電界の情報が光信号に変換され、計測システムまで低ロスで伝送される。

通常用いられるアンテナや導波管プローブは金属で構成されているため、電場を乱します。

一方、我々のプローブは、すべて誘電体により構成されているため、被測定電界を乱さず、忠実度の高い可視化が可能となります。被測定電界の振幅と位相に関する情報は、光ファイバ(黒い部分)の先端に装荷された電気光学結晶(0.2〜1 mm角)により光信号に変換され、計測システムまで低ロスで伝送されます。独自の光信号への変換技術と読み出し技術により、1GHz以下の低周波数領域から数THzまでの高周波数領域までを単一の計測システムとプローブでカバーできます。

マイクロ波・ミリ波・テラヘルツ波の電界分布を可視化する技術は、JST先端計測分析技術・機器開発プログラム」(S評価)のサポートのもと大阪大学・岐阜大学で開発されました。

技術の概要はyoutubeで!!

可視化システム

車用バンパーを透過するミリ波(77 GHz)の電磁波の振幅と位相の空間分布を可視化している様子

左図は、デモンストレーションのために、ミリ波(77 GHz)アンテナの前方に、カットされた車用バンパーを配置して、バンパーによりミリ波の電場がどのような影響を受けるかを可視化により確認している様子です。

バンパーをモデリングする必要はなく、試作用、量産用のサンプル(被測定物)の前にプローブを設置して、プローブを空間的に掃引することで、バンパーの影響を受けた電磁場の様子が正確に実測されます。

必要なのは、サンプルの設置と、計測領域の指定のみです。

計測にVNA(Vector Network Analyzer)や周波数エクステンダは必要ありません。

可視化の事例

電磁界シミュレータは非常に強力なツールですが、正しい答えを得るためには、現実の世界を正しく忠実にモデル化(物体形状の設定や材料の電磁的応答の設定)することが重要です。高い周波数になると波長が短くなり、物体表面の凹凸などが無視できなくなります。複素誘電率の正確な値を得ることも難しくなります。可視化の事例として、正しいシミュレーション結果がえられる単純なアンテナからの放射電界やスリットからの回折電界、シミュレーションは現実的でない濡れたウエスを透過する電界分布等を示します。

ホーンアンテナから放射されるテラヘルツ波 (310 GHz)の実測結果

CADデータ(ホーンアンテナ部分)と実測データとの合成。提供:岐阜大学久武研究室

振幅分布

位相分布

ホーンアンテナから放射されるテラヘルツ波(310GHz)は非常に素直な、イメージ通りの振幅・位相分布となっています。金属でできたホーンアンテナは形状が正確に定義されていて、シミュレーション結果ともよく一致します。ただ、電磁波にとってこんなにシンプルな状況はそんなにありません・・・形状を正確・精密に測定しこれをシミュレーションモデルに反映するのが難しい誘電体オブジェクトを透過した状況では、特に高い周波数帯ではシミュレーション結果と実測可視化結果は乖離します。

Horn antennaはシミュレーションと実測がよく一致する

Horn antennaは金属でできていて、形がリジッドで加工精度も高く製造が可能です。このようなアンテナの近傍界は、シミュレーション結果と我々の装置で測定した実測結果とは非常によく一致します。

実測結果(77GHz)

上図は、Horn antennaの近傍界の実測結果です。周波数はおよそ77GHz です。Horn antennaの近傍界はシミュレーションにより推定しても実測と一致します。ただ、誘電率のムラや湾曲、表面に傷等がある誘電体オブジェクトを透過した電場の分布は、シミュレーションと実測は一致しません。正確な誘電体オブジェクトのモデルの構築が非常に難しく(現実的でなく)、シミュレーションが現実の世界を再現できないためです。

スリットによる回折

左の図のような金属スリット(幅4mm)に電波(77GHz)が照射されるとどうなるでしょうか?電波はまっすぐ直進するのでしょうか?

下の図は可視化の例です。ホーンアンテナから放射された77GHzのミリ波が左下の軸外し放物面鏡により平面波となり、これが金属スリットに照射されています。可視化されたミリ波は写真と合成されています。スリットの上から観測しています。

振幅分布

位相分布

スリットを透過したミリ波は、広がりながら伝搬します。振幅値は相対的に小さいですが、金属板の真裏にも電波が回り込んでいことが、位相分布を見ればわかります。

ダブルスリットによる回折

振幅分布

位相分布

スリットが二本並んだダブルスリットの場合は、単純な球面波ではなくなり、ビームは複数本に分裂します。これくらいの挙動であればまだ簡単な計算でもとまりますし、シミュレーションも簡単です。

金属ポールによる散乱

振幅分布

位相分布

金属ポールに平面波が照射された時の散乱パターンです。波面は平面ですが、光学系のアンバランスによって、振幅分布に少し偏りがあるビームを照射しています。しかも、ビームの中心から少しずらしたところに金属ポールを配置しています。分かりやすいように、少し斜めからの写真と可視化結果との合成ですので、位置関係には誤差が含まれます。散乱パターンはスリットやダブルスリットのような対称ではなく、様々な方向に様々な強度で散乱しているのがわかります。かなり簡単な形状であるポールであっても、入射波の振幅分布や位相分布によって複雑な振る舞いをすることがわかります。この散乱波がほかの物体に照射されてまた散乱され・・・現実の世界では、様々な物体が配置されているのが通常ですので、最終的な電磁波の分布を計算により正確に導き出すのは困難です。


可視化により吸収体の効果や性能の差が一目瞭然

電磁波は様々な物体により反射・散乱・回折されます。これらをちゃんと制御しないと、思わぬところに悪影響を与える可能性があります。吸収率99.9%の吸収体を使って遮蔽しているから大丈夫!と本当に言い切れるでしょうか?吸収体の吸収率は周波数特性もあれば、角度依存性もあるのが普通です。吸収体等により、電磁波を狙ったとおりに制御できているかどうかは、可視化をすれば一目瞭然です。

金属ポールに吸収体を設置した時の電場(77 GHz)の振幅分布を示します。吸収体Aと吸収体Bはフィルム状のもので、これをポールに巻き付けています。また、粉末の吸収体が練りこまれた樹脂物体を金属ポールの背面に配置したものも比較のために計測しました。もとの散乱パターンを反映して、それぞれの電場分布を大まかには似ていますが、細かいところには違いが見えます。

何よりも、実測により電場分布を可視化すれば、

が一目瞭然にわかります。

濡れた布により車載レーダの電場は乱れます

バンパーを透過した直後のミリ波(77GHz)の振幅分布と位相分布の計測例です。バンパーのR形状により振幅・位相分布はもとのアンテナ近傍界分布から変化していますが、それでも、綺麗な分布が得られています。

ところが、水に濡れたウエスをバンパーに付着させたると、振幅分布、位相分布ともに乱れるます。可視化をすればその様子が一目瞭然です。

バンパーへの水滴のつき方は千差万別ですが、どの程度乱れるのか?どの程度損失が増えるのか?どの程度放射パターンに影響を与えるのか?その最悪値を実験により検証しておくことは非常に大切です。