透過材の透過電波特性評価

車載レーダーセンサは一般的にエンブレムやバンパーなどの裏に設置され、今後、ヘッドライトやサイドミラー、ナンバープレート、フロントガラス、などへの設置も検討がされています。このような樹脂やガラス部品など、レーダー電波を透過させる部材を私たちは透過材と呼んでいます。

透過材は減衰を小さくすることも大事な特性の一つですが、透過した電波に乱れを生じさせないことが極めて重要です。しかしながら、一般に、樹脂やガラスの材料レベルで透過減衰を評価することはすでに多くの設計者が関心を持ち実施されていますが、透過電波の振る舞いまでを評価することはされていません。実際のレーダーシステムやレーダーテストシステムにてシステムのGO/NOテストができても、問題の本質が材料レベルにあるのか、形状にあるのか、成型条件にあるのか等、設計因子との因果関係を明らかにすることは既存の評価システムでは困難です。

私たちは、透過材を透過する電波を直接可視化することで、透過材やその設計因子が電波の振る舞いに及ぼす影響を評価することを可能にしています。以下はその事例の紹介です。

エンブレムの透過計測

左図のように、76GHzの電波がエンブレムを透過する際の振る舞いを評価しました。なお、エンブレムは市場の前方レーダーが適用されている車両のパーツを用いています。

計測は、エンブレム有り・無しに加え、図に示すようにエンブレムを水平方向に30°傾けたときの条件で実施しました。

左図のように、76GHzの電波がエンブレムを透過する際の振る舞いを評価しました。なお、エンブレムは市場の前方レーダーが適用されている車両のパーツを用いています。

計測は、エンブレム有り・無しに加え、図に示すようにエンブレムを水平方向に30°傾けたときの条件で実施しました。

上図はXY平面を計測した際の、振幅分布と位相分布を示しています。

振幅、位相ともエンブレムを透過することによって、また、角度を変えることによって、分布形状に大きな差異はなく、つまり大きな乱れが生じていないことがわかります。

上図は、左図の振幅・位相の結果を用いて遠方界に演算したときのE面放射パターンを示しています。

こちらからも、エンブレム有り・無しや角度によって放射が乱れていないことがわかり、今回使用したエンブレムは透過材として電波の邪魔をすることなく、機能を十分に満たしていることが評価できました。

バンパー(平板材)の透過計測

エンブレムの計測事例では、透過電波に乱れがない事例を示しました。

次に示すのはバンパーにおける塗装条件を評価した事例を示します。こちらでは、塗装条件によって透過電波に乱れが生じている事例を紹介します。

左図のように、76GHzの電波がバンパーを透過する際の振る舞いを評価しました。

こちらでは平板材を用い、塗装条件を変えたサンプルにて評価を実施しています。また、図で示しますようにXY面の計測に加え、XZ面の計測を行いました。

(なお、試験都合上、アンテナとセンサの位置関係を先ほどのエンブレム透過計測時とは少し変えております)

XY面

サンプルはPP平板を基材に、塗装の構成や膜厚、アルミ添加などの条件をふったシルバー色塗装のサンプルを3種類評価しました。(比較として、サンプル無しと塗装を施していないPP平板のみも実施しています。)

XY面の計測より、塗装条件によって振幅分布形状が異なっており、位相分布にも乱れと差異があることが確認できます。特に、塗装②のサンプルにおいては振幅分布がスプリットしているような形状分布が観察され、透過電波への影響が顕著であることがわかります。

XZ面

こちらはXZ面の計測結果を示しています。

位相分布をみると、一見、伝播の仕方に大きな差異はみられませんが、振幅分布をみると、XY面同様に塗装条件によって分布形状が大きく異なっていることが確認できます。塗装②のサンプルでは中心の電波が弱くサイドに分散しており、一方で塗装①や塗装③では(PPも含め)中心の電波が強く集光しているような挙動が観察されます。やはり、条件によって透過電波への影響が顕著であることがこちらからもわかります。

上図は、先ほど示したの振幅・位相の結果を用いて遠方界に演算したときのE面放射パターンを示しています。また、右のグラフは赤枠で示す部分の拡大図となります。

エンブレムを評価したときと異なり、各条件によって放射パターンに差異があることが明らかです。塗装②のサンプルにおいては(先ほどの結果では振幅分布においてサイドの電波が強くなっていた)、サイドローブが非常に高くなっていることが確認されます。また、塗装①と③のサンプルはサイドローブが低くなっておりビームが鋭くなっていることも確認されます。

左グラフの拡大

放射パターン、つまり透過電波の振る舞いが異なることによって、レーダーセンサシステムへの影響が懸念されます。

例えば、塗装②のようにサイドローブが高い場合、意図しないゴースト検知やアングルエラー(角度誤検知)を招くおそれがあります。

以上で示したように、塗装の条件が透過電波に対して簡単に影響を及ぼすことがわかります。このような塗装条件が及ぼす影響は、一見塗装の見た目では判断できなく、塗装膜厚の管理だけでは制御が困難であり、また、塗装自体の正確な物性値(誘電率)を取得することが難しいためシミュレーションで解析することも困難です。

今後、中近距離レーダーは24GHz帯から79GHz帯に移行するため、より透過電波への影響は顕著となり、さらにセンサシステムの高分解能・高性能化に伴い、ますます無視できなくなってきています。これまでは、塗装の材料特性、減衰特性のみを満たせば設計が成り立っていたかもしれませんが、今後はこのような設計評価や検査が必要となることを示唆しています。

我々の技術では、発信・透過電波の近傍を可視化することで、どこに問題があるかを直ぐに、ピンポイントに追究することができます。また、近傍界の電界計測を正確に正確できるため、遠方界の精度も高く、近傍と遠方の両面から様々な考察と設計のヒントを得ることが可能です。